嫡男の苦悩・中

一、当家は代々名を留めた当主が多いと言う中でも、父・元就ほど先代を超えた者はおりません。ですから私に才覚器量があったとしても、到底父には敵わない事でしょう。今のように私が形ばかりとて当主として存在していても、家臣や人の覚えは莫大の劣れがあり、況んや他国一円においては沙汰の限りではありません。

一、その上、私には無才無器量に加えて良く補佐してくれる家臣もおりません。しかし只今はこのように思っておりますが、ただ偏に父の一心の心遣い、心労によってこのような状況です。家に賢佐良弼もおりません。これは物事を見知る以前のことでしょうか。

一、「灯火消えんとする時、光りを増す」の例えのように、家運もまさにこの時まででしょうか。この理は能く悟っておりますから、迷う事はありません。

一、兎も角、今生においては十分に良く知っています。偏に来世安楽の念願は骨髄に染みております。

一、右、私の心の内を申すままとしました。

一、このように申したとて、国家を保つ事は常々油断なく、力不足と言えども、懸命にその心がけを果たす覚悟でおります。その次第については、少しも疎かにしないようにしております。

一、右の心中については、胸の奥に納める覚悟であります。何れにしても、帰真の道理を覚悟するまでの事であります。

一、盛者必衰 一、生者必滅 一、会者定離

此の理は悉くさとりました

一、天道満ヲカク、

此の理を以ってさとりました。