山中と秋上・後

さて最後の別れをしに来た伊織助に、鹿之助はこう答えました。

「侍は渡りものである。貴方の父の決断は無理もない事だろう。だが貴方は少年のころから私の話し相手であり、友だった。こうなった今でも断金の友だと私は思っている。貴方が親とともに行動するという事を、どうして恨みに思うものか。今日ある命も明日には知れないのが武家の習いだ。さあ、別れの盃を重ねようではないか。私は明日から、伊織殿を討つための謀略を練る。貴方もまた、私を殺す算段をするといい」

二人は盃を出して取り交わし、さしつさされつたっぷりと盃を交わしあいました。それは幼い頃から共にあった二人の友の、最後の盃でした。

「ではこれまでだ。明日は戦場の塵となるとも、互いに旧交は忘れまい」

鹿之助と伊織助は互いに手に手を取り、涙にむせんで立ち別れました。

伊織助が森山の城に帰った後、鹿之助らは秋上の所領に夜討ちをかけました。けじめをつけた後での夜襲、その時鹿之助は何を思ったのかは記されていません。ともあれ鹿之助と伊織助の最後の別れの盃、という逸話です。

結果としてこの後、鹿之助も勝久も滅んでしまう事を思えばこの時の秋上の判断は間違っていなかったのでしょうけれども、幼い頃からの友と敵同士になると言うのは、今の世から見ても物悲しいものを感じさせますね。