戦国の異名と、魔王・終

「我は生きていた時は武田判官光和と名乗っておった。死んだ時の最後の一念によって修羅道に入り、魔軍八万四千を率いて天下の争乱を起し、仏法をあだとなし、猛火をもって全ての寺を焼き尽くそうとしている。達磨大師九年の修行ですらどうもすることはできない。ましてこの頃の一僧において何が出来るというのか。形こそは僧に似ているが、心は鬼の如く、身に法衣をつけているが、心は俗塵に染んでいるではないか。仏は太平の世の中のかん族であり、釈迦は乱世の英雄である。このような不都合なものがどうして我を降伏させることが出来ようか!」

言い終わるが早いかその男・武田光和は一口に僧を食おうと飛びかかりましたが、僧が即座に大声で「通心無影像!」と叫んだその一瞬、光和は合掌して何かを唱えつつ、跡かたもなく消え去りました。

この僧はこれはまことに不思議なことであると思って、ここに暫く逗留して光和の霊を弔いました。

その後このことを武田のゆかりの人たちに語ったので、彼らはやがてこの僧と供養をして、千部の径を書写しこの地に埋め、千本卒塔婆を造って追福を祈ったので光和の怨霊もようやく静まったと伝えられています。

武田光和、今項羽武田元繁の息子。死後に魔王になった男の逸話、これにて終幕です。