戦国の異名と、魔王・8

こんな事があったのだから武田光和の居城があった武田山では怪異の噂が立ち広まりました。そして暫くして、念仏を上げていた僧が一人、武田山のふもとを通りました。山の怪異のうわさを聞いた僧は、

「それは亡き武田光和公の霊が成仏せずに修羅道をさ迷っているのであろう。しかして仏の力で救われぬことなどはないから大丈夫だ」

と言うと、僧は山頂に庵を結び、光和の供養に念仏を唱える日々を始めました。すると、光和はある時は老翁となって現われ、ある時は美女や童子になって現われ、夜な夜な僧を悩まし続けるようになりました。この光和が言うには、

「上に貴ぶべき諸仏もなく、下に救うべき人々もない。念仏など唱えていったいお前は誰を救おうとしているのだ?」

と、僧に尋ねました。あまりの事に一瞬答えに窮した(常人なら仕方ないだろう)僧を見た光和は

「念仏不問!私の声が汚れるので早々に下山せよ!」

とまさに鬼気迫るとはこの事と言わんばかりに僧に迫ったので、僧は山を下りてこの事は己の胸の内深くに隠して置き続けました。しかし僧はある時弟子にこの事を話してしまい、その弟子の一人が還俗して皆に話したのでこの事は一般の者たちにも知れ渡ってしまったという話です。