死ぬまで渡れない川

さて小早川家を手中に収めた毛利元就、安芸での力を磐石化させて天下に名乗りを上げるのか・・・・そう思われた矢先に、元就を意気消沈させる出来事が立て続けに起こります。

元就最愛の婦人とも言われる糟糠の妻であった妙玖夫人と、実の母のように慕っていた大杉方が相次いでなくなってしまったのです。これには元就も相当応えたようで、妙玖夫人が亡くなった時には髪が真っ白になって49日があけるまで惚けたようになってしまっていたという逸話まである程です。結婚して十数年、戦と戦乱に明け暮れ子供たちは人質や養子に出して心休まる日々がなかった元就にとって、その間ずっと傍にいて支えていてくれた妙玖夫人の存在とは例えようもなく大きなものだったのでしょう。元就はある時、このような歌を詠んでいます。

待えたる かひも涙の ふる雨に 逢せへたつる 天の川浪

待ちに待っていた甲斐もなく涙のように降る雨は二人の出逢いを無情にも隔てる天の川の波のようだ。これは会えなくなった織女と牽牛の二人の悲しみの涙雨なのだろうか。それとも彼らのように離れ離れになった私と妻の二人の悲しみの涙雨なのだろうか。

七夕の日に雨が降ってしまい、妻を思い出して涙を流す元就の姿は謀神のロマンチストな一面を感じさせてくれます。仕方ありませんね、三途の川は天の川と違って死ぬまで渡れることはありませんから・・・

謀神を育てた女性も、支えてくれた女性も失ったことに堪えた元就は隠居を決意します。